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 じゃらり。

 耳慣れてはいるが、耳障りな音。


「目を覚ましたか………」


 持っていた杯を置いて、隣の部屋へとゆく。


「考えたか?」


 繋がれてうずくまる影に、声をかけた。


 じゃらり。


 鎖で縛る手首には、血が滲んでいた。


 暴れるからだ。


「や、やめろっ! 痛っ………」


 腕をとってその傷を舐めると、身体が強張る。


 その反応が楽しかった。


 痛みが大きいほど、傷が深いほどいい。


「俺を請え。俺を望め。俺を欲しろ、悟空」


 強く睨む顔に言ってやる。何度でも、俺は答えを求める。


 ただ一度口にすればいい。願えばいい。


「求めるだけ与えてやるぞ」


 顎を掴んで引き上げ、強引に唇を重ねた。


「……………なにが欲しい」


 噛みきられて血が流れたが、それは悟空も同じだ。悟空の血は甘い。


「なにもいらない。だから、俺をあそこへ帰せ」


 空間の歪みの隙間にわずかに見える世界を指して、悟空は言う。


「それはできんな」


 なぜいつまでもあの場所に縋るのだろう。


 世界をやると言っても、悟空はうなづかなかった。


 居心地が良かったとは思えない。


 人も神も、異端のものには冷たい。


 利用だけして、なにも与えようとはしてくれなかった。


 壊して、奪ってゆくだけだ。いつも。


 なのになぜ、悟空は俺と在ることを承知しない?


「あぁ、そうか。金蝉………いや、いまは三蔵か」


 俺が出した名前に、悟空が反応する。


 金蝉童子。昔は、悟空の保護者であったな。


 めぐりめぐって、いま再び一緒にいる絆がどんなものか知らんが、嫌な気分だ。


「ヤツが欲しいか?」


「…………………………」


 切れた唇を噛んで、睨むだけでうなづきはしない。


「一人では足らんか? 欲張りだな。悟浄と八戒もつけるか?」


 意外と言う顔で、悟空は俺を見た。


 その瞳に言ってやる。


「魂のない器なら、ここに陳列してやろう」


「なっ!」


 途端、その普段からも大きな目がさらに見開いた。


「悪くないだろう?」


 しゃがみこんで、さらに近く悟空の顔を覗き込んだ。


 それは、なくしてしまうことよりつらいことだろうか。


 いつも手に届く位置で、だが二度と届かない。


「それでも欲しいか?」


「……………下衆野郎」


 唸るように、悟空は低く吠えた。


「いいだろう。それが望みなら、叶えてやるのはたやすい」


「な、に………を?」


 時間がなかった。いつまでもこうしていられる時間が。


「啼かすのも悪くない」






「やだっ! なにするっ………」


 服を剥いだ途端、暴れだした。


 だが、鎖があって思うようには抵抗できないだろう。


「酷くされたいのだろう? あいにく、無理強いは嫌いじゃないんだよ」


 手に入れる術と力を持った。あの頃とは違う。


「痛っ! な、なに?」


 足の付け根で、縮こまってしまっているものに触れると、悟空ははじめておびえたような瞳をした。


「まだ知らないか? 教えてやろう」


「なっ! なんだよ! やめっ」


 暴れて脚を閉じようとするから、体を挟んでさらに密着を高めた。


 やわらかい肌は、まだ快楽のかけらも知らないかもしれない。


「んっ………」


 首筋を吸えば、赤い痕が残る。


 鎖骨のくぼみ。その下の蕾。


 這わせた舌に反応して、悟空の身体が素直に反応した。


「気持ちいいか? 金蝉はこんなことしてはくれまい?」


「あ………やめ………」


 ぽちっと硬くなる蕾を口に含んで、優しく転がしてやる。


 ビクビクと、あわせるように悟空の身体が震えた。


「やめろ………なんでこんな………んっ………」


 逃げる腰を引き寄せて、唇を重ねた。


「噛むなよ、噛んだらココ、握り潰すからな」


「ひっ」


 本気だと、軽くだが性器を握りこむと悟空は息をつめた。


 こじ開けて、歯列をなぞる。息苦しさに喘いだ隙に、舌を絡めて吸った。


「ふっ………」


 嚥下しきれない唾液が伝って、膝に落ちてシミを作った。


 熱い吐息。くたりと力が抜けた身体を抱きとめると、その息が耳元をくすぐってきた。


「どうした? ずいぶんとおとなしくったな」


「くそっ!」


 まだ負けん気は健在なのか、固めたこぶしを胸に当ててくる。


 悔しげなその様子が、またそそる。


「悦かったのだろう? 正直な身体だ」


 早く触れて欲しいと、ヒクついている。


「自分でするか? そのままでは辛いだろう」


 悟空は馬鹿にされたと思ったのかギリと唇を噛む。


「して欲しいと口にすれば、触ってやるぞ」


「は………、だ、誰が………っ」


 甘い息を我慢してみせても、乳首に触れるだけで息をつめる。


 口に含んで舌で転がせば、突っぱねていた腕は力を無くした。


「はっ………んん………」


 ぽたりと、俺の腿に雫がたれた。


 触れられず、だからといって自分で触れもしない性器がこぼす液体。


「辛そうだな。こうして欲しいんだろ?」


「やっ………あ………」


 やわらかく握りこむと、悟空は我慢するように目を閉じた。


「目を開けろ」


 顎をつかんで揺すると、悟空が睨みながら細目を開ける。


「目をそらすな。いま、お前に快楽を与えているのは俺の手だ」


「いやだ………やめろ」


 口ではそんな拒絶をしても、身体は違う。


「舐めろ」


 うるさい口に、指を突っ込んでしゃぶらせた。


 やわらかい舌が指に絡んで、ゾクリとさせる。いい感触だ。


「ふっ………んっ………」


 噛むことも、あふれる唾液を飲み込むこともできずに、悟空は苦痛の息を上げた。


 だが、その苦痛の代わりに性器をこすりあげてやると、また甘い吐息へと代わる。


 十分指が濡れると、俺は悟空の口から引き抜きまだ誰も触れていないだろう部分へとあてがった。


「な、なに?」


 予想もつかなかった行為に、悟空が身体を硬くする。


 笑いが起きる。


 いまから俺がすることを、悟空は理解できるだろうか。


 触れただけでこんなにびっくりしているのに、ここに俺自身が入ってくるなんて思いもしないだろう。


「なんでそんなとこっ………や、痛っ………」


 唾液でぬらしたとはいえ狭い器官だ。指を入れるだけでもすごい圧迫感があった。


 痛むのか、悟空は身体をよじって抵抗したが腰を抱え込んでしまえばそれもできない。


 悟空の感じる場所を探す。


 それはたやすく見つかった。


「あ、………」


 あんなに痛がっていたのに、ピクと身体が別の反応を示す。


「ここか?」


「やっ………」


 くいと指を曲げると、悟空の身体がはねる。いい反応だ。


「ぬ、抜けよっ………なんで」


「抜いて欲しいか?」


 望みどおりにしてやると、悟空がほっと息を吐く。


 その隙に、俺は悟空の中に入り込んだ。


「うぁっーーーーーっ!!」


 悲鳴に近い声だったが、最後はかすれて小さくなった。


 入ったはいいが、動かせそうにはないな。狭すぎる。


「息もできないか?」
 絶え絶えになっている悟空に口で息を吹き込んでやると、思い出したかのように悟空は大きく息を吸った。


「痛いか? 下衆野郎になれといったのはお前だぞ」


 悟空は悔しそうだったが、それを言葉にはしなかった。


「まぁ、いいさ」


「痛っ!やめ………動く……な…」


 育ちきっていない身体は軽い。簡単に持ち上がり、落とせる。


 悟空は痛みに、暴れることもできない。


 何度か注挿をくりかえすと、奥まで入るようになった。


 ぬめりを腿に感じて視線を落とすと、血で濡れている。


「切れたか。辛いか?」


 聞いたところで、悟空は何も答えない。


 ずっと唇をかみ締めて、こらえている。


 出血したところで、手を緩める気はさらさらないのだがな。


「チ………クショウ………」


 悟空の瞳に、笑う自分が写っていた。


 狂気のさまに、さらに口元が歪む。


 けして懐かない獣を、力ずくで犯した。


 そうしたって自分には屈しないとわかってても、欲しかった。


 流れる血と体液。身体は汚せても、魂までは汚せない。


「……………俺が嫌いか? 悟空。憎いか?」


 痛みに血の気を無くした顔で首を振る。


「悟空………」


 どこかで拒絶されるのを望んでいた心が、激しく動揺した。


「嫌いじゃない………でも、一緒にはいれない」


 かすれた声の、強い意思。


 すべてを否定されたほうが、よかったのか? 俺は。


「あ、痛っ! あっ、………うぁっ」


 激しい感情のまま悟空を揺さぶると、悟空は意識を手放してしまった。


「なぜなんだ」


 力を無くした身体を抱きしめる。


 あの時のまま、お前は変わらない。


 出会った頃の、疑いを知らないココロ。




 じゃらり。


 暗闇に、鎖を引きずる音がする…………………………。


END


自分の中にある焔と、書いてるうちにかけ離れてしまった。
安楽さんの漫画読んで、「この前はどうなのっ!」って抗議したんだよなぁ。
そのときに「私が書いていい?」って言った記憶があるけれど、出来上がってみたら「ごめん、なんか安楽さんの世界を壊してしまいそうなので、これ別の話ってことにしたほうがよさそうよ?」 って感じになってしまった。
屍は現在、ふたりとも「焔まつり」真っ只中なのだけれど、好きだから書きづらい。
いや、最遊記はどのカップルも難しいのだけれどさ。
がんばって精進します。

2001.11.07 柳生十子

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